秋の味覚
もう秋も随分深まってきました。スペインに来た当初、舞茸、シメジ、えのき茸と言ったキノコが見つからず、椎茸もあまり知られていないこともあり、日本のキノコ類に飢えていました。そのうち、スペインで一般的なキノコを代わりに沢山食べるようになり、ひとまず一件落着となりましたが。
スペインでよく知られているのは、所謂マッシュルーム(champiñón)、そして、平茸に似た「セタ(seta)」という灰色の大降りのキノコです。特にセタはフライにしてアリオリソースをかけると美味しく、これは私達がよく行く市の中央のサンタ・アナ広場(Plaza de Santa Ana)のバルで欠かさず注文する一品です。
普通は灰色の大降りのキノコのことを指す「セタ」ですが、実は、傘が平たい色々な種類のキノコの総称としてこの言葉が使われることを後に知りました。そして、通常はマッシュルームや日本のキノコ類は含まれませんが、時にはキノコ全部が含まれることもあるとか。灰色のある種のキノコ→傘が平たいキノコ→全てのキノコ、と変幻自在の言葉がこの「セタ」でした。
キノコが大好きな夫と私は、以前はEl Cisne Azulというキノコ専門店のレストランに行っていました。このレストランは、「最高のSetasのレストラン」という評価を色々な場所で得ており、そのキノコの種類の豊富さや美味しさには感心するばかりですが、子供が生まれてからは随分ご無沙汰しています。最近は、近くの市場で椎茸や舞茸が手に入るようになり、なぜかドイツ系のスーパーで瓶詰めのなめこを見つけたりし、キノコの遭遇率が上がって嬉しい限りですが、それでも秋になるとキノコ熱が高まってくるから不思議です。
先日、夫の叔父から電話があり、「マドリッドのグアダラマ山脈でキノコを採ってきたから、そっちに今から持って行くよ。」との嬉しい連絡が。叔父夫婦が来て、彼らが子供達と一緒の時間を過ごしてから、早速調理開始です。(私はその間に息子を寝かしつけに・・・。)
夫の叔父は植物学に詳しい人で、どのキノコが食べられるかについてもよく知っています。キノコを持ち帰る際、ビニール袋に入れるとすぐにキノコが劣化してしまう為、キノコ狩りにはいつもツタで編んだ籠(cesta de mimbre)が必要だと教えてくれました。そういえば、ガイドブックにも「おばあちゃんがよく持つ籠、または赤ずきんが持つ籠」と記載されていたので、ちょっと笑えた覚えがあります。また、それぞれを分けて運ぶのではなく、全てを同じ籠にいれて運ぶようにするとか。これによって、キノコの胞子(espora)が溜まらずに籠から落ちるそうです。
叔父が持ち帰ってきたキノコは、Champiñon silvestre(何と学名はAgaricus campestris!アガリクスという名前だけで、何だか体に良さそうです。)、Pie azul(学名はTricholoma nudum)等です。調理方法は簡単。まずは、水道の水をチョロチョロと流しながら、キノコについた泥や枝葉を洗い落とし、キッチンペーパーを敷いたトレーの上で簡単に乾かします。次に、熱したフライパンでそれぞれのキノコを炒めます。キュッキュッという音がしてからも混ぜ続け、その後に塩をかけると、キノコが水分を出し、一気に火が通り始めます。そこでオリーブオイルと刻んだニンニクとパセリの葉を入れ、きちんと加熱し、最後に塩胡椒で味付けをするだけです。この熱々のキノコをパンと一緒にいただくというシンプル極まりない料理ですが、これだけで秋が来たなぁとしみじみ思います。
とても楽しいひと時を過ごしました。
今週は、偶然八百屋さんで美味しいニスカロ(Níscalo)というキノコを見つけました。シナモンのような風味のするこのキノコ。冬が来る前にまた何度か堪能することになりそうです。